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ファンタジー世界の嗜好品 [ファンタジー世界考察]

 前にファンタジー世界の飲み物について三回くらい書いている。そしてグーグルで「ファンタジー世界の飲み物」と検索するとこのブログの記事が三つヒットする。ということで嗜好性飲料についてまた書こうと思ったが、ついでだから嗜好品についてとりあげる。


 嗜好品という単語は森鴎外が作った言葉である。中国語に嗜好という言葉はあるが嗜好品という言葉はない。英語にも嗜好品という単語はなくShikohinと呼ばれることもある。

 嗜好品とは人間が純粋に楽しみのためにもちいる消費物のことである。栄養を補給するために摂取するわけではない。代表的なものは茶、コーヒー、煙草などである。
 そして中世ヨーロッパにはどれ一つなかった。


 中世ヨーロッパに嗜好性飲料と呼べるものはなかった。紅茶もコーヒーもココアもなかった。煙草もなかった。ハーブティーくらいはあったかもしれない。
 そもそも当時は普段から酒を飲んでいた。飲み物といえば酒であった。エールにせよワインにせよ普通に朝から飲んでいた。ヨーロッパは水が飲めたものではなかったので仕方がないのである。

 茶は支那大陸で飲用とされたものである。これについては以前も書いた。だから紅茶がヨーロッパで日常的に飲まれるようになったのは中華帝国がヨーロッパの貿易圏に接続されてからである。インド亜大陸で紅茶は大体的に生産されるようになった。ちなみにアッサムの紅茶は独特の味わいで、特にミルクティーに最適だが、アッサムの茶はチャノキではなく、チャノキの亜種らしい。
 コーヒーも中世になってからアラビアで飲まれるようになったものである。ヨーロッパ人がコーヒーを飲み始めたのは十七世紀の第二次ヴィーン包囲以降である。
 ちなみに砂糖の需要がヨーロッパで一気に膨れ上がったのは、庶民に至るまでコーヒーを飲むようになったからである。紅茶はインド植民地を有する大英帝国が主な消費地であったが。日本人は緑茶の発想なのか紅茶にもコーヒーにも砂糖を入れない人は多いが、ヨーロッパではほいほい入れる。ちなみに台湾やら東南アジアでも入れる。多分中国大陸でも入れる。日本だけ特殊と思われる。
 ココアが今の形になったのも最近の話である。そもそも、ココアは新大陸の原産でありヨーロッパには元来存在しない。ミルクや砂糖を入れて飲みやすく、あるいは固形のチョコレートにして食べやすくしたのは近代ヨーロッパの発明である。前も書いたように元来のアステカのココアは皇帝の滋養強壮剤であるのだから、日本でおっさんがマカビンビンとかスッポンパワーとかを飲むのと同じ感覚である。
 煙草も、ココアと同じく新大陸の産物である。だからクリストーバル・コロンの航海以前はヨーロッパに存在しなかった。そして驚くべきは煙草の拡散速度である。一度ヨーロッパに移入した煙草は大航海時代の航路を通じて瞬く間に世界中に広まった。その証拠に、煙草は英語でもポルトガル語でも日本語でも「タバコ」と呼ぶ。各国で単語が割り当てられるより早く世界に広まった。同様の速度で広がったのがこれもまた新大陸の特有疫病であった梅毒である。クリストーバル・コロンの航海から百年経たずして日本の戦国武将が梅毒で死ぬようになった。ちなみに梅毒は元々牛の疫病であるから、誰か物好きが牛とセックスしたのであろうなどと澁澤龍彦は書いている。もっともそもそも梅毒が新大陸特有のものだったのかどうかもよくわかっていない。この病気はあまりに早く世界中に広まりすぎた。

 さて、話がずれた。

 煙草というと、日本では紙巻き煙草ばかりで、他に煙管が伝統的だが、それ以外はせいぜいパイプと葉巻くらいしか人口に膾炙していない。しかしその他にも嗅ぎ煙草や噛み煙草というものがある。嗅ぎ煙草は粉末を鼻から吸うものであり、噛み煙草はガム状の煙草を噛む。合衆国の野球選手がよくガムのようなものをくっちゃくっちゃと噛んでは唾を吐いているが、あれは噛み煙草である。噛み煙草はニコチンを有しているから噛んだ唾液も噛み煙草も飲み込んだら死ぬ。彼らが唾をペッペッペッと吐くのは汚らしいわけではない。そうしないと死ぬのである。お陰で彼らは舌癌の発症割合が高い。
 イスラーム世界では水タバコ、シーシャが普及している。これは水の入ったガラス瓶に煙草の煙を通すものである。持ち歩きが不便だからシーシャバーとかシーシャ窟とか呼ばれるところで集まってシーシャを嗜む。酒の飲めないムスリムにとってシーシャバーはヨーロッパのパブみたいなものであった。つまり大人たちの社交場であった。いや、パブには子供も来るが。

 そう、パブというのも、色々一概にいえるものでもないが、飲酒が割りと子供の頃から容認されていたヨーロッパ世界では大人の世界というわけでもなく、子供も来る場所で、社交場である。いや、それをいうなら「子供」などという概念そのものが、公的教育の普及しはじめた19世紀末になって新しくできたものである。ヨーロッパだけではなく全世界的に子供などという概念は近代まで存在しなかった。子供でも農場や鉱山で働き、第二次性徴を迎えれば結婚も出産も売春もするようになったのである。敢えていうなら子供と大人の差は第二次性徴だけである。

 話を本筋に戻そう。

 煙草のような嗜好品は、世界には他にもある。たとえばコカの葉などは、今では精製されてコカインとなるが、アンデス世界では煙草を嗜むようにコカの葉を噛んで、労働者などは疲れを癒やしていた。CardWirthにはコカの葉というアイテムもあるが。コカレロなる酒もあり、最近日本でも六本木あたりに行くと出てくるらしい。
 ブラジルにはガラナという植物由来の嗜好飲料がある。コーラも元来はコーラの実から抽出した液体である。コカ・コーラのコカとはコカの葉、コカインのコカであった。
 大麻も土地によっては一般的ですらある。合衆国の医療大麻などというレベルではない。ねこぢるの旅行記を信じるならば、インドでは大麻がガンジャラッシーなどとして普通に出てくるらしい。
 他にも、アジアやアフリカの熱帯にかけて、カヴァ、ビンロウ、キンマ、グトゥカー、カートなどといった様々な嗜好品がある。これらは噛み煙草のように噛んだり、抽出した液体を飲んだりして楽しむのだが、ただ向精神作用があるものもあり、危険な薬物と認識されているものもある。


 ファンタジー世界にこういった嗜好品は存在するだろうか。ファンタジー世界に移入した場合、政治経済、社会的な枠組みに影響がないのなら、存在してもいい。実際、ファンタジー世界でも煙草はポピュラーで、特にドワーフなどは煙草を好むなどとする設定を見かける。ドワーフのような肉体労働をしているのなら、噛み煙草やその他よくわからぬものを噛みながら鉱山労働に従事するのなどは絵になるだろう。エルフのシャーマンやドルイドなども自然と交信するのに薬物的なものを使ってトランス状態になるかもしれない。
 冒険者のような過酷な仕事であれば同様であり、特に煙草のような、どこか(もなにもそのものではあるが)不健康な嗜好品は似合うようにも思える。

 とはいえ、大英帝国が茶葉と生糸(とついでに鴉片)のために戦争を起こし植民地を支配したのに見られるように、こういった嗜好品であっても政治経済に影響を与えないなどということはないのである。まあ、啓蒙時代以降の、特に産業革命進行期のヨーロッパは中世ヨーロッパなどと比べれば爆発的な人口の伸びを示しているから、そこまで心配すべきではないのかもしれないが、それにしてもヴァスコ・ダ・ガマやクリストーバル・コロンの航海の動機が香辛料という嗜好性の高いものであった以上、無視もできないだろう。
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小五郎

嗜好品について勉強になりました。
嗜好品とは離れますが、ゲームとかでよくある回復アイテム、これも薬物(実際に薬草とかからできていると思いますが)に近い物かもしれませんね。
ものによりますけど、明らかに外傷なのに飲み薬って・・・とたまに思うことがありますねぇ・・・
(脈絡のない文章ですみません)
by 小五郎 (2017-08-21 23:01) 

枸櫞

ここの知識は大したものではないので過大な期待はしないでください。

ああ、ポーションとか薬草とかですか……
一応嗜好品というのは楽しみのためのもので実用性がないことが定義になります。

あの辺はコンピューターゲームとしての処理が優先されるので、
ご都合主義なのです。
エリクシルとか名前つけておけば偉そうに聞こえますし。
そのうちその辺も記事にする予定です。
by 枸櫞 (2017-08-24 00:02) 

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