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ファンタジー世界のばね [ファンタジー世界考察]

 ファンタジー世界の社会構造をメインになんとなく話している気もする。

 たとえばファンタジー世界の工業生産力とか農業生産力、資本蓄積、技術発展、などをアナール学派気取りで考えるのは個人的に楽しい。
 ファンタジー世界で産業革命が起こらなかったり、資本が蓄積しなかったりする最大の要因は、いわゆる「モンスター」の存在にあると思っている。ゴブリンだのオークだのといった連中である。彼らが断続的に人間世界に破壊の斧を振り下ろすからファンタジー世界は発展しない。
 が、そんなことが楽しいのは、私とか、想像するなら支倉凍砂とその作品のコアなファンとかだけではなかろうかとも思える。


 今日はばねのお話。手を抜くつもりで。

 ばねとは物体の弾性を利用した道具、あるいは部品のことを指す。弾性とは物体が元の状態に戻ろうとする性質のことである。対義語は剛性で、物体がそのままであろうとする性質。たとえば武器でいうと剣や槌や槍が剛性を利用した道具である。弾性を利用した武器というと弓が代表的だ。
 だから弓というのはばねである。

 人類がはじめて使ったばねは、木の枝がしなることを利用した狩猟用の罠であると推測されている。その次が弓である。弓は一万年近く前から使われていた。
 弓はその後、弩(クロスボウ)へと進化した。最古の弩は支那文化の産物らしいが、その百年程度後にはヨーロッパでも使われはじめた。同時発生的に使われたらしい。
 日本ではクロスボウをボウガンと称することが多く、CardWirthでもボウガンと称する例はかなりみかけるのだが、これは株式会社ボウガンの社名であり商標である。だから報道でもボウガンとは呼ばないはずなのだが、日本のクロスボウ業界でボウガンは強いためか、割りとファンタジーに詳しそうな人でもボウガンと呼ぶ人がいる。
 ヨーロッパで弩、クロスボウが発生したとは書いたが、ヨーロッパでは携行兵器ではなく大型化した形で使われている。古代ローマのバリスタとして知られるものは有名で、バリスタはいわゆる弓の力だけではなく、ねじりの力も利用している。

 いや、順序が前後してしまうが、ヨーロッパや古代支那では弩の他に攻城兵器としてばね、ねじりの力を利用した道具が発生している。カタパルトである。カタパルトは動物の腱などのねじれの力を利用して石などを投擲する道具であった。
 古代ギリシア、あの文化が異様に発達したアレクサンドレイアでは更には青銅製の板ばねも発明されていた。
 古代ギリシア、古代アレクサンドレイアはまことに科学が発展していた。蒸気機関すら発明されていた。アンティキティラのオーパーツとして知られるアナログ計算機も発明されていた。だがどれも瑣末な道具として発展しなかった。蒸気機関はせいぜい自動人形の動力にしかならなかった。
 だからファンタジー世界で蒸気機関があっても実は不思議なわけでもないのである。

 その後、中世に入るとヨーロッパでは携行兵器としてクロスボウが多用された。クロスボウの利点は兵の育成に手間がそれほどかからないことである。クロスボウの欠点として再装填に時間がかかるというのがあるが、数を揃えれば問題ない。それに比べて普通の弓、特にロングボウなどは兵の訓練に手間がかかる。フランス軍はイングランドのロングボウ兵を捕らえると指を切り落としたが、これは身代金のために捕虜交換しても二度と弓を引けないようにするためであった。だから戦場から無事生還したイングランドのロングボウ兵はそれを誇って人差し指と中指を見せつけるポーズをとった。今ではピースサインとして知られている。
 だから訓練の時間がある個人経営の冒険者は弩をあまり使わず弓を使うのではないかと想像できる。
 日本で弩が衰退したのは、戦争が土地を巡る小競り合いしかなかったからである。少人数の兵士、つまり武士は弓の鍛錬をする時間が十二分にあった。だから兵士の数を揃えて弩を持たせる必要もなかった。戦争の規模が違ったのだ。

 さて、ばねは中世の間クロスボウの利用がせいぜいであったが、中世末期になって大きな進展を見せた。機械式時計の発明である。ぜんまいや脱進機といった機械式時計に必要な装置は、元々は中華帝国で水時計の機構として発明されたようである。それがイスラーム世界を通ってヨーロッパに到達した。
 伝説の上では、千年紀をまたいだ教皇シルウェステル2世が、イスラーム世界に学んだり悪魔と契約したりして機械式時計を発明したとされるが、これは伝説にすぎない。澁澤龍彦は機械式時計は明らかに修道院の文化から生まれたと述べている。どちらにしても、誰がいつ機械式時計を発明したのかは明らかになっていない。
 少なくとも、ぜんまいを利用した機械式時計は14世紀には存在した。ダンテはその詩の中で、機械式時計のなかった時代の平穏を懐かしんでいる。1500年頃、懐中時計が発明された。これはニュルンベルクの卵という名前で知られている。ペーター・ヘンラインという職人が発明したともされるが、これも事実ではないらしく、時計の発明は明らかになっていない。
 1500年前後であるから、ぎりぎり中世ヨーロッパ世界、中世ヨーロッパファンタジーにねじ込むことはできるかもしれない。

 もう一つ、中世ヨーロッパファンタジーに関わりそうなばねの利用は馬車の懸架装置であろう。これは16、17世紀になってからだ。もはや中世とは呼べないが、中世にねじ込むことが不可能なものでもないだろう。
 それまでは馬車の「乗り心地」を改善する手法としては、椅子を革紐で宙ぶらりんにするといういささか荒っぽい手法が取られていた。
 日本でアニメ化されるような、いわゆる中世ヨーロッパファンタジーには、お貴族様が豪華そうな馬車に乗っているが、中世ヨーロッパの馬車は懸架装置もゴムタイヤもないのだから乗り心地は最悪であった。道路も舗装すらされていないし。古代ローマの石畳の街道すら打ち棄てられ朽ち果てていた。

 ばねはこのあとも人類史で発展を遂げるが、中世ヨーロッパファンタジーと関係ないのでこんなところで切り上げておく。


 次は兜の話でもしたい。
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